その8

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海辺を眺めるとまるで異国の地に来たような印象だが、少し内地へ足を向けると、そこはごくありふれた日本の農村風景。
遠く離れた見知らぬ風景のはずなのに、祖父母の住む土地の風景によく似ており、寂しさの中に少しだけ懐かしさを感じる。
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視線を入り江から内陸の方へ向けると、眼に飛び込んでくるのは、静かに聳える一本の老木。そして、持ち主の帰りをじっと待つ耕耘機。
その時間の流れから切り離されたような光景は僕の意識の中にたゆとう祖父母の風景と重なり合う。
だが、そこに横になっている吉澤ひとみを目にした瞬間、その光景は途端に僕の知らない景色へと戻ってゆくのだ。
どんなに似ていても、僕の風景に彼女はいない。
とても近いようで絶対に触れられない距離、そこにこそ吉澤ひとみの輝く場所はあるのだ。
そんな、絶対的距離感を感じさせてくれる一枚。